製本図面【観音製本】を低コストでデータ化するには!(スキャナー機器特性から考える)

歴史のある建設会社さんには自社の手掛けた建築物件の図面が大量にある事でしょう。
中でも古い物件の図面はデータが無く、紙図面でしか残っていないものが多くあると思います。
特に竣工図・施工図は製本図面の形で残っているものが多いと思います。
この製本図面を出来るだけコストを抑えてデータ化出来ないか、と悩んでいらっしゃる会社は非常に多いと思います。
本コラムではA1、A2サイズの紙ベースの大判図面について、二つ折り製本図面、折込み製本図面、ビス止め製本図面、シート図面など、その形状に応じてデータ化に適した機器の解説と、建設会社さん保管の図面形状で一番多い、二つ折り製本(観音製本)された状態の図面を、どうすれば効率よく、なるべく低コストでデータ化出来るかについて徹底解説したいと思います。

 

目次

1.様々な状態の建築図面

2.図面状態に応じて適合するスキャナー機器
 2-1.シート図面の場合【シートスルースキャナー】
 2-2.折り畳んだ図面の場合【フラットベットスキャナー】
 2-3.製本(観音製本)図面の場合【フラットベットスキャナー】【オーバーヘッドスキャナー】

3.まとめ

 

1様々な状態の建築図面

紙の建築図面もその保存状態は様々でしょう。
マップケースや図面ファイルに入ったシート状のもの、建築確認申請書や工事請負契約書等で図面をA4、B5サイズに折り畳んで書類と一緒に左綴じでビス止めしたものや固定製本になったもの、図面を見開きで見られる様に二つ折りで冊子にした観音製本など。
それらの紙図面をデータ化する場合、その状態によって適合するスキャナー機器が異なります。
先ずはそれぞれの図面の状態に応じて適合するスキャナーの種類についてご説明します。

2、図面状態に応じて適合するスキャナー機器

 2-1 シート図面の場合 【シートスルースキャナー】

マップケースや図面ファイルに入った1枚ずつ拡がったシート状の図面をデータ化するのにはシートスルースキャナー(シートフィードスキ ャナーとも言います)が適しています。

      

原稿を端から通して搬送ローラーがその原稿を送っていくもので、原稿読み撮りのための撮影装置(CCD)は動かずに、その上を通過した部分を読み取っていく方式のスキャナーです。
スキャン専用機もありますが、広幅複合機があればこの方式のスキャナー機能を備えています。
比較的操作は簡単です。
デメリットは読み込んだデータの寸法が必ずしも正確ではない事です。
搬送ローラーが原稿を送る際にどうしても伸び縮みが生じます。
OAメーカーの仕様書によると0.5%までは倍率誤差の許容範囲としています。
したがって1m当り最大5mmの寸法ズレが生じる可能性があるという事です。
スキャンしたデータを後から印刷して三角スケールを当てると、ちょっと寸法が違うな、という事になる場合があります。
用途によって許容範囲は異なるでしょうが、測量図などの複製で精度を求められる場合は別の読み取り方式のスキャナーを使用するか、倍率調整をする必要があります。
データから印刷する際にも伸び縮みが発生するのですが、図面印刷を主業務とするコピーサービス業者(コピー屋、青焼屋、青写真屋、複写業者などと呼ばれています)であればスケールに合わせて倍率調整してくれるでしょう。

 
 2-2 折り畳んだ図面の場合 【フラットベットスキャナー】

建築確認申請書や工事請負契約書等でA1、A2図面をA4、B5サイズに折り畳んで書類と一緒に左綴じしてある場合ですが、ビス止めしたものはビスを外して図面を伸ばせば基本的にシートスルースキャナーで読み込む事が出来ます。
しかし固定製本になったものは少し手間が掛かります。
釘打ちやポリパイプで固定されていたり、古いものは細い竹を打ち込んであったりする場合もあります。
また高さ調整の為に図面の間に紙やウレタン製の図面用背枕が入っていたりします。
製本を壊しても良ければ解体して図面を伸ばせばシートスルースキャナーで対応できますが、原本を壊せない場合はフラットベットスキャナーを使う事になります。

  

フラットベットスキャナーは平らなガラス台に原稿を伏せて置き、ガラスの下にあるセンサーを移動させて紙面を読み取る方式で、原稿が動かず、図面を伸ばした状態でスキャン出来るので寸法精度の高いスキャンができるという利点があります。
が反面、最大原稿サイズに応じて装置自身が大きなものになる事と、作業性としては折込み図面を1枚ずつ伸ばしてガラス面に置くため非常に手間が掛かり、また数多くの図面が畳んで綴じられている場合は下の方の図面は上に重なった図面が邪魔をしてガラス面に全面密着出来ず浮いてしまいます。
従って綴じ代に近い部分は影になって映らない場合があります。
コピーサービス業者の多くはこのフラットベット方式のスキャナーを所有しています。
図面の扱いが専門の業者でも、出来るだけ映る様に原稿を抑え込んで、しかも原本を傷めない様にするにはかなりのコツが要ります。
当社でもベテランが担当する事になります。
寸法精度を求められる場合はこの方式のスキャナーが適しています。
固定製本の図面をスキャンするのに後述するオーバーヘッドスキャナーは不向きです。
図面を伸ばした状態をキープし難い為、波打った状態や、折り目が伸びていない状態でスキャンする事になります。
従ってデータの線も波打ってしまいます。
図面印刷を手掛けていないスキャンサービスのみを専門にしている業者は大きいサイズのフラットベットスキャナーは所有していない所がほとんどです。
固定製本もオーバーヘッドスキャナーで対応してしまう様です。

 
 2-3 製本(観音製本)図面の場合 【フラットベットスキャナー】【オーバーヘッドスキャナー】

1枚の図面を見開きで見られる様にノドの部分が完全に開く状態で冊子にしたものを観音製本、背貼り製本、2つ折り製本などと呼びます。
この製本は図面を2つに折って、裏面どうしを糊付けして制作するのですが、全て手作業で制作されます。(最近ではこのタイプの製本が半自動で出来る機器が開発されている様ですが)従って仕上り具合が手掛けた業者の腕に大きく左右されます。
本の背にあたる部分ですが、用紙の間を1枚ずつ丁寧に糊付けする業者もあれば、揃えて背側を撫でるだけの糊付け方法の業者もあります(*1)。本の開閉を頻繁にした場合にその違いが明らかになります。
また揃えて背側を撫でるだけの糊付けの場合、その手抜きを補い強度を少しでも保つために必要以上の高圧プレスをかける場合があります。
そうすると見開きで完全に開くはずのノドの部分が開きにくくなってしまいます(*2)

        揃えて背側を撫でるだけの糊付け方法          用紙の間を一枚ずつ丁寧に糊付け
(*1)  


        ノドの部分が開きにくくなっている製本              180°開く製本
(*2)              

 

当社でお預かりする製本図面(観音製本)にも背側が外れてバラバラになったものや、ノド部分(図面の中央部分)が完全には開かない製本図面(観音製本)が多くあります。

建設会社さんに数多く保管されているA1、A2のサイズで製本(観音製本)された状態の図面をデータ化するには先程のフラットベットスキャナーもしくはオーバーヘッドスキャナーで対応する事になります。
図面の寸法精度で云えば先に述べたフラットベットスキャナーが優れていますが、作業性に少々問題があります。
ページを1枚ずつめくって裏返してガラス面に密着させスキャンしては表向けてページをめくってまた裏返して、を繰り返す作業は大変な重労働です。
中にはA1サイズで約300ページ、厚さ10cm、重量約10kgなんて製本(観音製本)図面もあります。
そうなると完全に体力勝負です。
そしてその作業性の悪さはスキャン価格に反映される事になります。
A1サイズでシート図面ならば1枚当たりスキャンサービス価格が150円~300円に対して観音製本図面だと400円~600円が相場ではないでしょうか。(地域によって大きく価格差があります)

そこに上陸してきたのがオーバーヘッドスキャナーです。



  



オーバーヘッドスキャナーとは製本を上向けにしたまま上部からスキャンする方式で、撮影装置が上部にあり、原稿から離れた位置で読み撮る方式のスキャナーです。
本を裏返す必要がなくページをめくるだけで上部からスキャン出来るのでフラットベット方式に比べ格段に操作性が良いのが特徴です。
A3サイズまでの小型のものは富士通製などが有名ですが、A1、A2サイズに対応した大型のオーバーヘッドスキャナーは日本で製造しているメーカーはありません。
A1対応の機器は私の知る限り3種類ほどありますが全てドイツ製です。
輸入品ですので非常に高額です。
その特性は様々で書籍のアーカイブを前提にした色再現性の良いものや、図面に適した、周囲の影消し(トリミング)や青焼き図面などの濃淡に対して濃度調整をし易い機器もあります。
スキャン専業の業者は前者を導入されています。
当社は図面専用機として導入しているので後者を選択しています。
このオーバーヘッドスキャナーの優位性はフラットベット方式に比べて圧倒的な作業性の良さです。
そしてその作業性の良さは作業時間短縮に繋がり、スキャンサービスの安価なご提供価格へと繋がります。
デメリットは上部にある撮影装置から読み撮る図面まで距離がある事です。
図面の中央と端ではその焦点距離も違ってきます。
焦点距離に応じた画像補正を行うことになります。
従って寸法精度ではフラットベット方式には敵いません。

しかし、建設会社さんで大量の製本(観音製本)図面のデータ化を考えておられる場合、優先されるのは図面自身の寸法精度より、データ化された時の視認性です。
図面を参照した時に、記載の文字、寸法数字が見易い事、そこが最重要視されます。
ですが古い青焼き図面は現存するその状態が既に経年で劣化していたり、ページ毎で濃度がバラバラの物が少なくありません。
現状の視認性を極力維持してデータにするのには結構なコツが要ります。
目視による図面毎のデリケートな濃度調整は当社でもベテランと新人の差が出ます。
それは出来たデータを比較すれば一目瞭然です。
そこには旧来から青焼き図面を手掛けてきた図面の取扱い専門のコピーサービス業者のノウハウがあります。
そこにはスキャンサービスのみ専門業者の謳う「高品質」との違いがあります。

 

まとめ

書庫に山積みの製本(観音製本)図面をなるべくコストを掛けずにデータ化するには、複数社から見積りを取ると良いと思います。
その際、折込み図面や製本(観音製本)図面はどのタイプの機器でデータ化するのかを聞き取りする事をお勧めします。
そこで使用する機器のタイプと価格を比較する事ができます。
またコストのみならず、データ化された図面の視認性は最重視されるポイントです。
見積り依頼の際、作業工程を聞き取りする事をお勧めします。
そこには単に解像度の違いだけでは判らない出来上がり品質の差があります。
濃度調整は1ページごとしてくれるのか、出来上がったデータが見易い様に周囲の影消しのトリミングをしてくれるのか、等、それらを聞き取りする事も重要です。
図面印刷を手掛けていないスキャンサービスのみを専門にしている業者さんの場合、濃度は一定、トリミングは別料金などの対応が多い様です。
コストのみに気を取られ出来上がりのデータの視認性が悪ければ意味がありません。
濃度の異なる青焼き図面や傷んだ製本(観音製本)のスキャンデータサンプルをお願いするのも良いかも判りません。

 

当社では観音製本図面のデータ化で全国からご依頼を受けていますが、破れてバラバラになった製本はメンディングテープで簡易補修しながら、また開き難い製本の場合、1ページ開く毎にノド部分をガラス瓶で擦り出来るだけ開いた状態でスキャンし、そのままでは文字、数字が隠れて読みにくい部分も出来るだけ視認出来るよう心掛けてデータ化しています(*3)
また当社は全国のコピーサービス業者(同業者)さんからオーバーヘッドスキャナーによる製本(観音製本)図面のデータ化のご依頼を承っています。
図面の扱いが専門の同業者さんに信頼されるデータ品質(作業工程)だと自負しております。
観音製本図面のデータ化をお考えの際には是非ご相談を。


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このコラムは私が書きました。

株式会社 菅 原 代表取締役 立岩敏哉

株式会社 菅 原 について
・1958年青写真屋として創業。
・図面の印刷、製本から始まりドキュメントの取扱い専門業者として63年の実績。
・「日本ドキュメントサービス協同組合」(旧:複写産業協同組合)所属。
・国交省他官公庁、ゼネコン、ハウスメーカー・製造メーカー様等を取引先とし
 時代の変化、お客様ニーズに即応しサービス内容を拡充、
 現在では全国対応の法人向けスキャンサービスを展開。
・業界屈指のスキャナー設備により、同業者からも信頼されるサービス品質を提供。
・2018年「大きいサイズのスキャン専門店」サイト
・2021年「書類・図面のPDF化専門店」サイトを開設